話しかけないのも接客。顧客満足度、ロイヤルティにつながる「良い関係づくり」は相手の気持ちを的確に読むことから始まる。

顧客エンゲージメント

先日、某大手紳士服チェーンの店頭ワゴンセール品の長袖Tシャツを購入しました。衝動買いです(笑) 仕事の途中でしたし、さくっと買ってお店を出たかったのですが、対応してくれた店員さんは、店内一番奥のレジでの精算を終えた後、お店出口まで私を送ってくれるというのです。

とはいえ、一緒に出口まで歩いても、話すネタがあるわけでもなくなんとなく気まずい感じ。出口では、丁寧にお辞儀をしながら「またご来店くださいませ!」と送り出してくれたものの、どうにも落ち着かない気持ちのままお店を後にしました。

店員さんとしては、そうやって「おもてなし」の精神を発揮しているつもりなのだとは思います。しかし、数万円の服を購入したのならともかく、たかだか千円程度の買い物でお見送りされるとこちらのほうが恐縮してしまいます。

「おもてなし」とは、相手を心地よくさせること、「うれしい」、あるいは「ありがたい」と感じさせることが狙いであり、再び購入・利用していただくことが究極の目的のはず。しかし、この紳士服チェーン店で私が感じた「気まずさ」「落ち着かなさ」は、むしろ同チェーン店を再利用することをためらってしまう結果を招いており、逆効果となっています。

このような押しつけがましい「おもてなし」は、マニュアル偏重型サービスの典型的な弊害だと言えますが、様々な業種・業態で似たような例がたくさん観察できますね。例えば、飲食店でもやたらと「お待たせしました」を連発する店員さん。注文したメニューがすぐに運ばれてきて、たいして待ってもいないのに形式的に「お待たせしました」と言われても違和感を覚えるだけです。

「中味のない形式的な言葉なんだから適当にやり過ごせばいいじゃないの?」と感じられる方もいらっしゃると思います。しかし、相手を心地よくさせたり、喜ばせることのできない言葉を投げかけることに価値はありません。人によっては逆効果になるくらいだったら、いっそ何も言わない方がマシだとも考えられます。

美容室イメージ

美容室においては近年、美容師さんからあまり話しかけられたくないお客様が増えているそうです。そんなお客様に対して、担当の美容師さんが、ご機嫌取りというか、関係性を良くしようと無理に話しかけてしまうと、かえってお客様にストレスを与えてしまい、二度と来店してもらえなくなる可能性が高いでしょう。

このため、美容室によっては来店時のアンケート用紙に「話しかけても大丈夫ですか?」という設問を追加しているお店もあります。

また、渋谷にある人気美容室「AQUA(アクア)」では、「気の利いたことが言えないなら話す必要なし。その分、笑顔を磨こう」とスタッフに伝えています。

AQUAではまた、「おかゆいところはございませんか?」といった決まり文句は原則禁止しており、お客さまの気持ちを考えた上で、自分の言葉で話すように指導しているそうです。

そのためにも、的確に状況を判断できるように、各自が内面を磨く必要があると同店のジェネラルマネージャー、伊藤和明氏は考えています。

レストランイメージ

ファミレストランを運営する「すかいらーく」では、定型的なマニュアルを覚えてもらうだけでなく、状況に応じた適切な対応が取れるよう、各スタッフに自分で考えさせる人材育成方法を取り入れ始めています。

具体的には、「どのメニューが早くできますか?」などと描かれた80種類ほどの「ケーススタディカード」を用いて、各従業員にどのような対応が望ましいかを考えさせる訓練を2013年9月から一部店舗で試験導入しています。

 マニュアルはあくまで最低限のサービス水準を維持するためのものにすぎません。

お客さまに喜びや感動を与え、きずなを強化する、つまり「顧客エンゲージメント」を強化するためには、1人ひとりのお客様の気持ちを的確に読んだうえで、スタッフ一人ひとりが自分なりに考えた「心からの言葉」でお客様とコミュニケーションする必要があります。

したがって、自分で考え、自分の言葉で語ることのできる人材をどうやって育成するか、が、「顧客エンゲージメント強化の鍵」を握っていると言えるでしょう。

*AQUAやスカイラーク等の事例は、日経新聞夕刊記事(2013年11月12日)などを参考にしました。