24時間年中無休で500人の正社員がカスタマーサポートをする企業を知っていますか? ~ソーシャルメディア時代にはコールセンターがブランドを高める

エンゲージメント

Barry Blackburn / Shutterstock.com


プロダクトアウトからマーケットインへ、製品主導から顧客主導へ、企業戦略変革の重要性が叫ばれて久しい。データベースマーケティングや
CRM、ワントゥワンマーケティングなど、新たなマーケティング手法が次々に登場し、実践されている。そうしたなか、顧客との新たな関係づくりとして登場したコンセプトがCEM(Customer Engagement Managementだ。

顧客主導マーケティングのコンセプト
カスタマー・エンゲージメント・マネージメントとは?

こう書くと、「また、学者やコンサル会社、IT会社が根本は変わらないのに言葉だけ変えて、新たなコンサルやITインフラを売り込もうとしているに違いない!!」と思われがちになる。

顧客主導を推し進めるといった根本は変わらないが、筆者の認識では、顧客とのコミュニケーション環境が劇的に変化したために今までの発想では通用しないというパラダイムシフトが起こっている点である。これをまとめて表現しているのがCEMと考えるべきである。

ソーシャルメディアの浸透により顧客と企業の会話は全て公開情報になった

それではどんなパラダイムシフトだろうか。その背景はソーシャルメディアの登場に起因する。

インターネットの登場により、顧客と企業はダイレクトにコミュニケーションする機会が増えた。それは顧客にとっては企業に対して直接モノ申すルートができ、逆に企業は直接かつ双方向で顧客のニーズに合ったコミュニケーションが可能となった。企業は顧客の情報を収集して分析し、100万人の顧客に100万通りのコミュニケーションをすることが重要な施策となったのだ。 

これが、ソーシャルメディアの登場でパラダイムシフトが起こっている。ソーシャルメディアの浸透により顧客と企業の会話は全て公開情報になった。それまでは企業と顧客は1対1、つまりワントゥワンマーケティングであったものが、ワントゥワンの会話を周りの多くの顧客が見ているという状態だ。

企業や商品の選択に、企業メッセージよりも友達同士の共感のつぶやきが影響をあたえる


そしてさらに重要なことは顧客同士の会話が企業や商品を評価する大きな要因となってきたことだ。企業から発せられるメッセージよりも友達同士の共感のコミュニケーションの方が企業や商品の選択への影響を及ぼしてきているという状況である。

こうしたネットワークの中では、企業は100万人の顧客に100万通りのコミュニケーションをとることより、100人の生活者に正直に誠実にコミュニケーションをとり「絆」すなわちエンゲージメントを築きあげていくことが重要になってくる。これがCEMの考えである。 

こうなるとCEM時代においてコールセンターの役割が違ってくるであろう。今までは効率化の名のもとに顧客との会話をいかにネットにシフトするかが重要施策であったが、電話での生活者との会話をチャンスと位置づけエンゲージメントを築き上げる重要なセクションに進化していくのではないだろうか。

顧客との関係づくり実践のベストプラクティス ザッポスの奇跡

上記のCEMを確立してお手本となるのが、米国ザッポス社だ。

ザッポスについてのは、書籍やセミナー資料が多数存在する。早くも「伝説」となりつつある企業だ。その強さの秘訣は、「企業ビジョンからインフラ(事業運営の仕組み)までが一気通貫している」ところといえよう。

 その中でコールセンターは重要な位置づけを占めている。同社センターの特徴を以下にあげる。

①24時間365日運用の自社コールセンター

アウトソーシングはしておらず、約500名のスタッフは正社員である。日本のオペレータの正社員比率は一部の調査によると約7%といわれており、ザッポスがいかにコールセンターを中核業務に位置付けているかが分かる。 

②電話での受注率は約5%。90%以上はWeb受注

Webでの受注や対応がほとんどにも関わらずコールセンターに対して莫大な投資をしており、コールセンターを効率的な業務遂行部門ではないと位置付けていることが分かる。 

③オペレータにはマニュアルやスクリプトはなし。対応時間の制限もなし

顧客と企業の対応でありながら「個」としての対応を推進しており、生活者との会話をしっかりしてきずなを構築することが役割であることが分かる。

④自社が在庫切れなら他社サイトを調べて勧める。靴に関係ないことでも親切に対応するよう教育

あたかも親しい友達の相談にのるような対応で、顧客とのリレーションの構築、しいてはきずな構築をすることがオペレータのミッションとなっていることが分かる

 以上のように、ザッポスではコールセンターを従来の企業の発想とはまったく違った位置づけで定義している。当然、ネット対応による効率化は最先端の仕組みで実施され、ソーシャルマーケティングにおいても先進企業としてあげられている。

ECを軸とする企業であるザッポスが、電話というアナログメディアを使って顧客と共感にすることによる“きずなを深める役割”と位置づけ、成果を出しているのだ。

ソーシャルメディア時代、リピーターを増やし新規顧客を誘発する発信源はコールセンターにあり

ザッポスにとってコールセンターは、単なる顧客対応組織ではなく、生活者とのきずなを深めてブランド価値を向上させるための、いかなるプロモーションや宣伝活動よりも勝る、CEMを実践する重要な組織といえる。そして、コールセンターのコストは顧客サポートのためのコストセンター的要素ではなく、一般の企業でいうと、広告などのマーケティングに充当されるコストの位置づけにある。やみくもに広告に費やすコストより、コールセンターにコストをかける方が顧客とのきずなを構築し、結果的に顧客の拡大に寄与できることを体感しているのだ。

 同社のような事例は珍しく、また企業ビジョンや戦略の根幹から変革が必要なため、簡単には真似できないが、「CEM時代のコールセンターのあるべき姿」が実現された素晴らしい例である。

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