博多一風堂の成功を後押ししたのは、創業者の経験に裏打ちされた哲学にあった

企業のビジョンやミッション

クセになる豚骨ベースのラーメンが人気の「博多一風堂」。日本全国でのチェーン展開はもちろん、アメリカ、アジア、ヨーロッパへも出店し、世界的なラーメンブームの盛り上がりに一役買っています。

つい先日、映画のPRで来日していた、アカデミー賞女優ヘレン・ミレンも一風堂を訪れたというニュースを見て、一風堂の知名度の高さと、ラーメンは国民食から世界食になりつつあるということを実感せずにはいられませんでした。

その一風堂を運営するのが、力の源(チカラノモト)カンパニー。30年前の1985年、最初のラーメン店「博多一風堂」をオープンしてから年商107億円(2013年12月期)を達成するまでになりましたが、「食にまつわること全部を担う、グローバルでローカルな企業」としての成長は、創業者の人生経験や想いが大きく影響しているように感じました。


一風堂はどん底から生まれた

力の源カンパニー創業者・河原成美さんの人生はまさに「波乱万丈」という言葉がぴったり。高校卒業後、マンガ家や俳優を目指しながらも挫折、その後父親のコネで大学に入り、兄の口利きでスーパーに就職。夢もかなえられず、自分の力で自分の人生を切り開くことができない自身へのフラストレーションからか、スーパーに就職した頃から悪友と窃盗行為を繰り返し、逮捕されてしまいました。

でも裁判に証人として出廷した河原さんの父親が、「私は高校の教師として、今まで何百人もの生徒に教えてきた、と思っていた。今回の件では、確かに息子は悪いことをした。それは、私が自分のわずか4人の子供の教育もできなかったということ。すべては私の責任です」と涙をポロポロ流しながら謝るのを見て、深く反省すると共に、「自分の陰の部分がこうしてあらわになることでようやく自分らしく生きられる」と前向きになれたのだとか。

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河原成美さん(出典:KENJA GLOBAL

その後パブオーナーとして独立し、当時心酔していた松下幸之助さんの”商売の原則は休まないこと”を教訓に、2年間1日も休むことなく働きました。また、毎日3人、年間1000人のお客さんの顔と名前を覚え、うち200人は誕生日も覚えてその大事な日をパブで祝いました。これでファンにならないお客様はいないですよね。

さらに、演劇が大好きだった河原さんは、お店を舞台と見立て、お客様を観客と捉え、どうやったら喜んでもらえるかを一生懸命考えました。演劇の経験を生かしたさまざまなパフォーマンスを披露することで、それを見にお店に来るお客様が増え、パブ「AFTER THE RAIN」は大成功を収めました。

でもパブの仕事は体がもたないと、河原さんは将来を模索するように。どうせなら飲食業を続けたいという想い、そして当時「怖い・臭い・汚い」と言われていた博多ラーメンのイメージを覆し、女性が一人でも入りやすい店を作れば成功するという確信から、人気ラーメン店で1年間修行を積み、日本全国のラーメン店の食べ歩きをした後、「博多 一風堂」の第一号店をオープン。モダンな店舗とジャズが流れる店内、丁寧な接客、豚骨特有の臭みをなくした深みのあるスープや自家製麺など、それまでの常識を覆した一風堂は、当然のごとく人気店へと成長していきました。


変化を恐れないから成長できる

一風堂をはじめとしたラーメン事業だけでなく、レストラン事業、コンサルティング事業、食品製造などで成長を続けてきた力の源カンパニー。同社の経営理念「変わらないために変わり続ける」には河原さんの「ラーメンをつくるだけではなく世界中に『ありがとう』を生み出す会社を目指す。そのためには、変わり続ける努力を怠りません」という志や、「継続は力なり」の生き様が反映されています。

例えば一風堂のようなラーメン屋は「そこに行けば必ずあるおいしさ」を守り、変わらない味やサービスをお客様にお届けすることが何より大事。でも変化と競争の激しいラーメン業界では同じ味ではお客様に飽きられてしまう。だから毎年少しずつラーメンにマイナーチェンジを加え、10年単位で大きく味を変え、おいしさを追求しています。


世界を舞台に活躍する演者・演出家を育てるために

「会社の力の源は従業員だ」と言い切り、お客様に支持されるお店であるためには、商品の向上だけでなく、サービスや従業員の意識の向上が欠かせないと考える力の源カンパニー。従業員を「演者」と捉え、力を身に付けて、それぞれの舞台で輝くことができるように、研修制度を充実させています。

実際、従業員数1000人以上の日本企業が社員1人当たりにかける教育費の平均は4万円だそうですが、力の源カンパニーの教育費は8.8万円と平均の倍! 若手社員はグロービスの企業向け人材育成「次世代経営者育成プログラム」でグローバルで通用する思考を、パート・アルバイトは毎月半日がかりで衛生や接客レベルの向上を、さらに増加の一途にある外国人観光客への対応力を高めるためにトレーニングアプリで英語、中国語、フランス語を学んでいます。ただ、一風堂には接客マニュアルはないそうです。それは河原さんの「店長は店という舞台に立つ主役だから、店舗ごとに店長のカラーが大きく反映されるべき」という考えがあってのこと。

河原さんが心の師とした松下幸之助さんは、「成功するための3原則」として

  1. 経営理念の確立と浸透させることが50%(絶対条件)
  2. 社員の個性を最大限に発揮できる 環境をつくることが30%(必要条件)
  3. 戦略と戦術(社員が好きにやったらよい)が20% (付帯条件)

を挙げましたが、力の源カンパニーにもしっかり当てはまる内容ですね。

また、松下幸之助さんの名言に「失敗の原因を素直に認識し、『これは非常にいい体験だった。尊い教訓になった』というところまで心を開く人は、後日進歩し成長する人だと思います」というものがありますが、成功に慢心せず、業界の常識や前例にとらわれずに変化を続けていく力の源カンパニーを築いた河原さんを表現するのにぴったりの言葉だな、と思わずにはいられないのでした。

参考文献:
逆転バカ社長-天職発見の人生マニュアル
参考サイト:
http://toyokeizai.net/articles/-/93389
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0908/21/news001.html