マクドナルドの元子会社だったチポトレが、苦戦する「ファストフードの王者」を超える勢いで急成長を遂げている理由

顧客エンゲージメント

「安い・早い」で受け入れられ、広がったファストフード。立ち食い蕎麦、牛丼、ラーメン、カレーライスなど日本ならではのファストフードもありますが、「ファストフード」と聞くとやはり思い浮かべるのはハンバーガーやフライドチキンなどのアメリカ式。アメリカでは当初、「早くて高カロリー」という点が労働効率を上げるとして受け入れられ、チップもいらない、安くて家計に優しいという点からどんどん広まっていったようです。

でも近年では元来の安っぽくて健康に悪いというイメージのファストフード店は敬遠され、素材や品質・鮮度にこだわっているファストカジュアル店(ファストフードとファミリーレストランの中間)が急成長しています。


元気のないファストフード業界を尻目に、元気いっぱいのチポトレ

Chipotle Mexican Grill (チポトレ・メキシカン・グリル、以下チポトレ)は1993年創業のメキシコ料理のファストカジュアルチェーン。2015年6月現在、アメリカ国内に約2000店を構えています。

”Food With Integrity”(誠実な食品)を提供することをビジョンとして掲げ、シンプルなメニュー、質の高い材料、伝統的な調理法、店舗のインテリアなどにこだわりを持ち、設立当初から、食べ物を早く調理して提供するファストフードのスタイルを継承しながらも、ファストフード店との差別化を目指してきました。

そのこだわりは相当なもの。毎日直接契約している農家から届けられる新鮮な食材を調理して提供する、地産地消がチポトレのスタイル。野菜はほとんどがオーガニック、豚肉においては100%、鶏肉や牛肉は80%以上が放し飼いにされたものを使用。もちろん缶詰や冷凍食品を使用することは一切ありません。さらに今年4月には、大手レストランチェーンとしては初めて、店舗で提供するすべての食べ物を「GMOフリー(遺伝子組み換え食品を使わない食品)」にすると発表しました。これは「今まで定着してきたファストフードのイメージと食べ方を変えたい」という目標に向けた取り組みの一つ。早く調理できる料理が、必ずしも保存料、増量剤、安定剤、人工着色料、香料などで加工された安い原材料を使わなければいけないというわけではない、ということをアピールし、注目を集めました。

このようなこだわりがあるため、食材コストの上昇に伴って値上げを迫られたものの、それでも顧客が離れることはありませんでした。これは多少価格が高くても品質にはこだわりたいという顧客のニーズに、うまくチポトレが応えられたという証拠です。


”意識”に働きかけたことがチポトレ急成長の理由?

米国のブランド調査会社「ブランド・キーズ(Brand Keys)」が毎年行っているブランドの顧客ロイヤルティ調査(Brand Keys Customer Loyalty Engagement Index、CLEI)があります。「顧客ロイヤルティ調査」というだけあって、測定するのは単なる顧客満足度ではなく、「満足」からさらに一歩踏み込んだブランドに対する強い思い入れの「感情」の部分。これはまさに顧客エンゲージメントの高さを測るランキングです。

アメリカ在住の18歳~65歳の36,000人の消費者を対象に行われた19回目(2015年版)の調査結果が発表され、ファストフード部門で見事チポトレが1位に。2015年第一四半期では売上高は前年比+20.4%、株価は前年比約+25%を記録し、業績は創業当初から右肩上がりだという点がロイヤリティの高さと比例しているのではないでしょうか。

今回チポトレが第一位となった理由は、前述の通り、食材や店舗へのこだわりはもちろん、チポトレの掲げるビジョンとその取り組みが顧客の共感と愛着を生んでいるからだと考えられます。消費者動向というものは常に変化するもの。最近では自分たちが普段口にしているものが、どうやって生まれ、どこからやってくるのかにこだわる消費者が増えましたが、チポトレが20年も前に掲げたビジョンが今、食文化を席巻し、同時に食文化のスタンダードとなりつつあります。

また同社は顧客の声を聞くことも忘れません。お店のドリンク用カップや紙バッグに、さまざまな作家や著名人の言葉をプリントし(下記動画参照)、めまぐるしく変わりゆく現代を生きる私たちに、古き良き人生観を思い出させてくれる、という試みを行っていますが、これも「食べている時に何か読むものが欲しい」という顧客の声にインスピレーションを受けて作られたものです。

一方「ファストフードの王者」マクドナルドはチポトレのような競合との競争にあえいでいる状態。近年の自然食志向や、期限切れ肉使用事件などで、アメリカだけでなく、日本を含む世界全体で売り上げが急落し、年間の販売見通しも暗転しています。そこで低迷脱却のため、同社では一部店舗で”Create Your Taste”という自分でカスタマイズして作ることができる質の高いハンバーガーの提供を開始し「安くて低品質」のイメージを払拭したり、よりヘルシーなチキンを使ったメニューを取り入れたり、メニューをよりシンプルにしたり、などの試みを行っています。

マクドナルドがこれらの試みを通してブランドイメージを回復できるかどうかはわかりませんが、米調査大手のフォレスター・リサーチの調査によれば、効率や安心・安全性よりも、顧客の思考や感情に働きかけるものが顧客ロイヤリティにより大きな影響を与えるということが分かっているため、マクドナルドはよりお客様の意識に働きかける試みが必要だと考えられます。

なぜならチポトレのように、ビジョン、製品・サービスの基本方針に対する共感や、製品・サービスに対する愛着を生み、顧客の意識に働きかけることができてはじめて、リピート・プレミアム価格での購入、友人・知人への推奨などのエンゲージメント行動を引き起こすことができ、顧客数の増大、顧客離反率の低下、売上・利益の拡大、持続的成長へとつながるからです。

マクドナルドは2000年代前半にファストカジュアルの将来に期待をしてチポトレを子会社にしましたが、2006年10月には本業への集中を選んでチポトレ株を全て売却。でもマクドナルドも先見の明はあったわけで、一度は子会社にしていたチポトレから学べることも多くあるのではないでしょうか。

参考:
https://www.chipotle.com/company
http://www.forbes.com/sites/greatspeculations/2015/04/20/chipotle-mexican-grill-earnings-preview-all-eyes-on-comparable-store-sales-growth/
http://blogs.forrester.com/michael_gazala/14-11-07-the_race_from_good_to_great_cx_hits_the_gas_pedal_in_2015