全米の「好きなアパレル小売ランキング」1位になった老舗百貨店ノードストロームが「顧客満足」と「利益」を両立できる理由

顧客エンゲージメント

「マニュアルを越えたところに感動がある」とよく言います。リッツ・カールトンで結婚記念日を祝うはずだったもののキャンセルしてしまった夫婦の元にリッツ・カールトンからのギフトや従業員からのお祝いのカードが届けられた、東京ディズニーランドのスプラッシュマウンテンで母親の形見の指輪をなくしてしまったというゲストのために閉園後30人のダイバーが潜った……など、伝説として語り継がれるサービスが多く存在しています。

小売業界にもこのような至高のサービスを提供し、サービス哲学の原点を作ったと言われる店があります。それがアメリカ最大の高級百貨店、ノードストローム。1990年代からそのサービスは伝説となり、「好きなアパレル小売ランキング」でも2012年から3年連続1位に輝き、何十年も顧客を魅了しているようです。さらに売上高は3年間で25%増え、2014年の売上高は前年比7.8%増で過去最高という好調ぶり。ノードストロームはどうやって伝説のサービスを提供し、アパレル小売として不動の地位を確立したのでしょうか。


徹底したお客様第一主義を支えるのは、上司の背中と従業員に裁量権を与える企業文化

ノードストロームの逸話で一番有名なのが「タイヤ伝説」。これは、ある日「タイヤを返品したい」と店を訪れたお客様のリクエストに快く応じたという店員の話。もちろんノードストロームはアパレル小売なので、タイヤは売っていません。これは「お客様を疑うなんてとんでもない。お客様は勘違いをされたに違いない。このタイヤをまた車まで持っていくのも大変だろうから、ここで私が返品を受け付けよう」という彼女のとっさの判断によるもの。他にも、欲しいサイズがないというお客様のために近くの競合店に行って買ってきたり、お客様が誤って洗濯して縮ませてしまったトップスを引き取ったりという類のストーリーが多くあります。

ノードストロームのこうしたお客様第一主義を支えているのは、「お客様に決して『ノー』と言わない」という行動指針です。普段からリーダー・マネージャーがそれを実践する背中を見せて従業員の行動規範になっています。また、顧客に接する機会の多い販売員の立場・意見を尊重しているノードストロームでは、販売員に多くの裁量権を与えています。これが顧客視点の接客を可能にしているのだと思います。


「スマイルを採用し、販売スキルを教える」ノードストロームの採用スタイル

ノードストロームにはこんな逸話もあります。ホームレスのようなボロボロの服を着た女性が店内に入ってきた時のこと、他の百貨店であれば入店を断られるでしょうが、ノードストロームの店員はその女性を暖かい笑顔で迎え、試着をすすめたといいます。どんなに優れた販売員でもこういった状況で笑顔を作るのはなかなか難しいのではと想像しますが、これはノードストロームの「販売員を採用して彼らを好感の持てる人間に教育するよりは、好感の持てる人物を採用して彼らに販売を教えている」という採用スタイルが可能とするものです。


顧客満足度を高めるだけでなく、とても合理的な「返品自由」のポリシー

ノードストロームでは、お客様の購入時期やレシートの有無に関わらず、全ての返品と払い戻しに応じるというポリシーを採用しています。これは前述の「タイヤ伝説」が良い例。このポリシーが顧客満足度を高めるだろうというのは容易に想像できますが、コスト面で見るとあまり合理的でないように思います。

でも行動経済学では、人は「得した喜び」よりも「損した苦しみ」を2・5倍強烈に感じると言われています。だから返品ができることで、購入して失敗したという後悔(損した苦しみ)が少なくなり購買意欲を喚起することができるため、返品の壁を低くすることでより多くの購入につなげられるのだとか。

ノードストロームではこうした消費者心理はもちろん、その費用対効果、さらには返品における従業員の心理ストレスも考慮した上でこの返品制度を導入したというのだから驚きです。お客様第一主義だけでなく、ビジネスの目標達成を視野に入れての判断に、精神論ではない合理的な経営が見えてきませんか?


顧客エンゲージメントの高さが成長につながっているノードストローム

ノードストロームのサービスから見えてくるのは、彼らがお客様を大事にしている、特別に扱っているという姿勢。それを実感したお客様はリピーターやファンとなり、同時に「ノードストロームなら気持ちよく買い物ができるよ」といった口コミをしてくれる広告塔になってくれるのではないでしょうか。これは顧客エンゲージメントが高い状態であると言えますが、ノードストロームの基本的な姿勢や考え方に対して深い共感を覚え、その優れたサービスに愛着を持つからこそ高まるものです。ノードストロームは高い顧客エンゲージメントをつくり出しているからこそ、顧客数が増え、顧客離反率が低下し、売上・利益の拡大や持続的成長を実現させているのだと思います。

参考文献:
『サービスが伝説になる時』、ベッツィ・サンダース(著)、出版社:ダイヤモンド社
『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』、ロバート スペクター (著), P.D. マッカーシー (著)、出版社:日本経済新聞社
『その損の9割は避けられる “後悔しない選択”ができる行動経済学』、大江英樹(著)、出版社:三笠書房