トータル・
エンゲージメント・
グループの
導入事例
サンエー・ビーディー販売部
実利のある施策にできたのは
メンバー全員が
意図をくみ取って真剣に、
全力で取り組んでくれたから

著名ブランドを多数手掛ける日本有数のアパレル会社、 株式会社TSIホールディングスでは2015年から 顧客ロイヤルティ指標NPS(Net Promoter Score)を 同グループの店舗運営に導入し、 難しいとされてきた小売現場の接客品質の可視化と継続的な改善に大きな成果を上げています。
グループでもっとも早いタイミングからNPSの取り組みをスタートさせた 株式会社サンエー・ビーディー 販売部 部長 福田大作氏、販売部 店舗管理課長 酒井里佳氏、販売部 第1セクション長 巻波麻子氏に、 NPS(Net Promoter Score/ネットプロモータースコア)を導入・実施にいたった背景と経緯、効果などについて詳しく伺いました。
サンエー・ビーディーについて
株式会社サンエー・ビーディーは、東証一部上場のTSIホールディングスグループ傘下で衣料品の企画・製造・販売などを主たる業務とする企業。2014年、サンエー・インターナショナルの会社分割により設立。ナチュラルビューティーベーシック、エヌナチュラルビューティーベーシック、プロポーションボディドレッシング、アンドバイピーアンドディー、ジルバイジルスチュアート、フリーズマートなどのブランドを展開しています。年商328億3200万円 (2017年2月期)、従業員数 1085名(2017年3月1日現在)。

トップダウンでNPSを導入
貴社でNPSを導入することになった背景を教えてください。
ネットショッピング、ファストファッションが広く認知され、個人の趣味・嗜好が細分化するなど、アパレル業界は現在大きな岐路に立たされていると言えます。ここ数年、大規模な店舗閉鎖や企業買収など業界の再編も加速化しています。
親会社である株式会社TSIホールディングスも2011年6月に株式会社東京スタイルと株式会社サンエー・インターナショナルの合併により設立された共同持株会社です。その傘下にある弊社、株式会社サンエー・ビーディーは、経営基盤の強化および合理的なオペレーション基盤の構築などを行い、持続的な成長を目指しつつ、6つのブランドを展開しています。
2014年3月に株式会社サンエー・ビーディーとなり、以降、様々な施策に取り組んできました。
今回のNPSもそのひとつです。
顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着度・信頼度)を数値化する指標のNPSは、欧米では多くのB2C企業が導入しており、NPSで高いスコアを獲得している企業は事業成長率も高いと言われています。
そこで当社もトップダウンのもと、2015年にNPSの導入・実施にいたりました。

ワークショップで全員参加
NPS取り組みの実施回数および具体的な実施方法を教えてください。
パイロット版を2015年に1回行い、その後、2016年から2017年にかけて半年に1回、これまで計4回ほど実施しました。
実施日や期間はブランドや店舗によって異なりますが、基本は店舗で商品を購入されたお客様を中心に販売員がお声掛けし、NPSのアンケート回答のためのWebサイトへのアクセス方法を記したカードの配布がスタートです。
以下のように実施。結果をもとに業務改善につなげるワークショップ※を挟んでPDCAサイクルを回す仕組みを構築しました。
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アンケートカードを用いて
お客様の声を集める期間(1カ月前後)店舗単位で集票を高めるような工夫をする
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店舗単位でワークショップ
(全員ミーティング)を開催お客様の回答分析結果を確認し、全員でディスカッション。
次の自分たちのアクションプランを立案 -
ワークショップでのアクションに従って
店舗を運営する(約半年間) -
アンケートカードを用いて
お客様の声を集める期間(1カ月前後)店舗単位で集票を高めるような工夫をする
※ワークショップ=NPSを使った分析結果をもとに全メンバーが集まってアクションプラン策定をするミーティング
販売部が事務局となって
NPSを推進
NPSの実施は販売部が中心となって行ったと伺っています。
ブランドごとの事業部に任せることもできたのですが、そうした場合、会社全体で足並みを揃えるのが難しくなり、NPSの導入効果が見えにくくなる可能性があります。
そこで、ブランド横串の「店舗運営全般を管理する組織」である本部の販売部が、NPSの事務局となって取り組みを推進しました。
ただ、特別な業務という感覚はありませんでした。
NPSの取り組みは言わば、お客様の声を聞いて店頭でのサービスの現状を可視化し、店舗オペレーションを改善する手法です。
可視化のための指標は目新しいものの、基本は昔から行ってきたサービス改善の取り組みですから、まったく違和感なかったです。
もっとも店舗運営では日々の業務に追われてしまい、ついついお客様の声をフワッとした感覚でしか感じられなくなることも。
NPSはそれをしっかり数字と図表で「見える化」してくれる。それが販売員の"やりがいにつながるのではないか"という期待がありました。
NPS実施のための
スキームづくりに腐心
全社的にNPSを実施するのは大変だったのでは。
今回のプロジェクトはトップダウン。経営側にはまったくブレがありませんでした。
当初周辺で賛否の意見が聞こえてきましたが、トップは"NPSの導入・実施に変更なし"です。
直々に命を受けた案件ですから失敗は許されません。
ですから、実施のスキームづくりは大変でした。
NPSのパイロット版の取り組みが始まると、会社のあちこちから「とにかく大変」「寝る間もないらしい」など、ネガティブな口コミが聞こえてくるようになりました。
原因は「これからはNPSという管理手法を導入する」という表面的なアナウンスだけが先行したことによるものでした。
実はパイロットの取り組み店舗では同時に販売のPDCA管理強化の取り組みも試験導入されていたのですが、これがNPSの取り組みと混同され、本格的なスタートを前にメンバーを萎縮させてしまう状況に陥ってしまっていました。
事務局も手探りでのスタートでしたから、ある程度、異なるベクトルに進んでしまうことは想定内。 回数を重ねてNPSをスムーズに実施できるようになれば、誤った認識は払拭できると考えていました。
事務局と事業部、
そして店舗スタッフが相互に連携
様々な葛藤があった中、NPSを浸透させることができた要因を教えてください。
要因はいくつもあります。思いついたものから述べさせていただきます。

【 1 】とにかくNPSを推し進める
この業界は感性とともに行動が大事です。
若い世代の新しい価値観や考え方は感性として尊重されなければならないのですが、感性を実際の行動につなげるハードルはものすごく高い。時間もかかります。
そこで、NPSの取り組みでは実施についてもトップダウンでレールを敷いて行いました。「やり方は若い世代に任せて、成長を待って」という方法は採りませんでした。
「行動あるのみ! まずはやってみる」
これに尽きます。やって気付くこともあるでしょうし、やってみれば新しい意見も出てくるでしょう。間違ったら戻ってもいいんです。
そういう意味では"間違ってNPSとは関係のない取り組みに進んでしまう"ことも、気付きのひとつと割り切って、とにかくトップダウンの姿勢を崩さずに推進しました。
【 2 】プロジェクトチームの発足
事務局メンバーだけでの推進には限界があります。
そこで、ブランドごとにNPSの担当者を決めてNPSの店舗への浸透と事業部との連携の役割を担ってもらいました。
具体的には、取り組みの体制に必要な人員を確保するためにスーパーバイザーを社内公募して増員させたり、それとは別にNPS推進リーダーの役割を任命したりしました。
人選で大事にしたのは、"自らが進んでNPSに携わってみたい"という気持ちを持っていること。
それがプロジェクトの推進力につながると考えました。
この施策により、NPSのプロジェクトチームが発足。同時に会社全体でNPSに取り組んでいることを、隅々の販売員に知らせることができました。

報告会での事例発表は、情報共有の場であると同時に各ブランドのアピールの場としても機能している
【 3 】ロールモデルの発掘
プロジェクトチームで力を発揮したスタッフは、プロジェクトリーダーのポジションで活躍してもらいました。
プロジェクトリーダーとして力を発揮し、結果を出すことで年一回の経営計画発表会において社長特別賞の表彰もされました。
【 4 】販売およびSVスタッフの増員
店長をスーパーバイザーに登用すると、そのポジションが空いてしまいます。
そこに新しい人材を入れなくてはなりません。
このアパレル業界再編の時代に大変なことだと誰もが感じるでしょうが、新しいスタッフ採用は躊躇せず積極的に行いました。
こうした一連の動きを見て、各事業部は「NPSに会社が本気で取り組んでいる」と肌で感じたと思います。
【 5 】販売スタッフの声を反映するワークショップ
販売部がNPS導入プロジェクトの中心的な役割を担ったため、当初は各事業部との間で認識や進め方にズレも生じました。
しかし1回目、2回目とNPSの取り組みを進めるうちに販売部と各事業部のコミュニケーションは円滑になり、NPSに対する認識も変わっていきました。
あるブランドで実施されたワークショップ(店舗の全スタッフが参加する、アクションプラン策定のためのミーティング)は、その後の推進を大きく加速させる契機となりました。
大型店のディスカッションの場に取締役や事業部長が参加したのですが、店長、サブ店長クラス、ベテランから若手までの社員スタッフ、さらにはアルバイトやパートのスタッフまでもがそれぞれの立場を超えて、お客様から寄せられた声をもとにサービスについて熱く語る姿はリーダーたちの目に焼き付きました。
NPSは単なる指標ではない、サービス向上の取り組みを活性化させる仕掛けだと印象づけました。
【 6 】好事例を共有するNPS担当スーパーバイザーによる定例会
各ブランドのNPS担当スーパーバイザーが集まってそれぞれの店舗でのNPSの取り組みを共有する会議を毎月開催しています。 従来のアパレル企業であれば各ブランドの売上数字などを報告する会議ですが、この会では
「どのように集票したか」
「どのようなお声掛けが効果的か」
「どんな改善取り組みをしたか」
「お客様からどんな声が寄せられたか」
といったNPSの取り組みを進めるための工夫や好事例、それによる成果などが報告されるのです。
またそこで共有された情報は各担当者が持ち帰って自分の担当する店舗で模倣され、そこでの工夫や成果がまた共有されるという循環が生まれています。
役員も参加するなか、「ここで何も発言しないということは、何も仕事していないということ」という価値観が自然と形成され、毎回、かなり熱を帯びた報告が寄せられます。
NPSの取り組みのエンジンです。

【 7 】eNPS(従業員満足度)を同時進行
NPSを継続的なプロジェクトとして根付かせるためには、お客様だけでなく現場にとっても「こんな良いことがある」と提示することも必要です。
事務局では、NPSの取り組み推進と同時にeNPS(従業員満足度)測定を含めた従業員アンケートを行い、現場が抱える問題意識にも耳を傾けました。
目標を達成した販売スタッフに対するインセンティブの支給や賞与と月額固定給のバランスの見直しなどの待遇改善、さらにNPS推進によるサブ店長の負担増を見越した「サブ店長手当」の改定も実施しました。
eNPSでは人間関係やキャリアアップに対する意見も多く寄せられており、人材育成支援策として社内ライセンス制度も発足させました。 引き続き改善してゆきたいと考えています。
高度なテクニックよりも
最初のお声掛けと笑顔が原点
NPSを実施して、発見はありましたか。
NPSの取り組みは接客品質の向上が直接のゴールですが、売上や教育面でも成果を上げることができました。
【 発見1 】あるべき接客の姿が明確に
現場では「高度な接客を身に付ける」「接客の中身を濃くする」など、これまでも試行錯誤を繰り返して様々な接客改善に取り組んできました。 しかし、NPSの取り組みを通じてベーシックなことの大切さをあらためて学ぶことができました。
結局、お客様の体験の中でもっとも大切なのは最初の「いらっしゃいませ」のお声掛けと笑顔だということです。 その基本ができていなければ、その先いくら高度なテクニックをもって接客しようと意味がない。
NPSの取り組みはそれを教えてくれました。
【 発見2 】取り組みが数字に比例
NPSの取り組みを始めた当初はトップダウンで推進したこともあり、現場の「やらされている感」は拭えませんでした。
しかし当社はスーパーバイザー、店長、サブ店長、販売スタッフ間の風通しがよく、一致団結するカルチャーを持っています。
現場のリーダーであるスーパーバイザーがNPSをしっかり理解し効果を確信してくれていれば、かならず店舗にも伝わっているはずと考えました。
実際、調べてみると、スーパーバイザーがNPSの意図や本質をしっかり伝え、真剣に取り組んでいる店舗では売上が上向き傾向に。
一方、スーパーバイザーのリードが不十分でいつまでも「やらされ感」に支配されている店舗では売上が伸びないという結果が数字に表れるようになりました。
この結果はNPSの担当スーパーバイザーが集まる月一回の定例会で共有され、自然と「より本質的なNPSの取り組みを進めなくては」という空気が高まっていきました。

今後もNPSの取り組みを
積極的に進めてゆくという福田氏
取り組みを継続することで
売上も期待できる
今後、NPSの取り組みに期待するものを教えてください
NPSにはふたつの面を期待しています。
売上への期待
売上においては、NPSの取り組みを始めたことで大幅拡大ができたかといえば、そうとは言いがたい状況です。 しかし、アパレル業界全体が市場を縮小していることを考えると、NPSの取り組みを実施していなければ売上が大きく落ち込んでいたのではないか、と考えられます。
一方でNPSの取り組みを続けて2年となる最近、各商業施設が実施する接客技術を競うロールプレイング大会などで、入賞するスタッフが確実に増えています。
徐々にではありますが、成果が見え始めていると言えるのではないでしょうか。
教育への期待
「教育には時間とお金がかかる」こと、一方で「教育しないと接客の質は上げられない」ことはよく知られています。 教育予算の優先順位はどの会社でもあまり高くありません。
しかし一連のNPSの取り組みによって、販売力と教育の関係が可視化され、結果として教育予算の優先順位が上昇し、新しい研修システム導入を果たしました。
今後も業務の効率化と教育体制をブラッシュアップし、売上アップにつなげたいと考えています。
本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
※ 株式会社サンエー・ビーディー
※ 取材日時 2017年8月
※ 記事制作協力:カスタマワイズ
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